おにばばあ》じゃなくって、鮹《たこ》の口を尖《とが》らした、とぼけた爺さん。笑わせるな、これは願事《ねがいごと》でなくて、殺生をしない戒めの絵馬らしい。」
事情《ことがら》も解《よ》めている。半ば上の空でいううちに、小県のまた視《なが》めていたのは、その次の絵馬で。
はげて、くすんだ、泥絵具で一刷毛《ひとはけ》なすりつけた、波の線が太いから、海を被《かつ》いだには違いない。……鮹かと思うと脚が見えぬ、鰈《かれい》、比目魚《ひらめ》には、どんよりと色が赤い。赤※[#「魚+覃」、第3水準1−94−50]《あかえい》だ。が何を意味する?……つかわしめだと聞く白鷺を引立たせる、待女郎《まちじょろう》の意味の奉納か。その待女郎の目が、一つ、黄色に照って、縦にきらきらと天井の暗さに光る、と見つつ、且つその俎の女の正体をお誓に言うのに、一度、気を取られて、見直した時、ふと、もうその目の玉の縦に切れたのが消えていた。
斑※[#「(矛+攵)/虫」、第4水準2−87−65]《はんみょう》だ。斑※[#「(矛+攵)/虫」、第4水準2−87−65]が留っていた。
「お誓さん、お誓さん。――その辺に、綺麗《
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