ている。
そのかわり、気の静まった女に返ると、身だしなみをするのに、ちょっと手間が取れた。
下じめ――腰帯から、解いて、しめ直しはじめたのである。床へ坐って……
ちっと擽《くすぐ》ったいばかり。こういう時の男の起居挙動《たちいふるまい》は、漫画でないと、容易にその範容が見当らない。小県は一つ一つ絵馬を視《み》ていた。薙刀の、それからはじめて。――
一度横目を流したが、その時は、投げた単衣《ひとえ》の後褄《うしろづま》を、かなぐり取った花野の帯の輪で守護して、その秋草の、幻に夕映ゆる、蹴出《けだ》しの色の片膝を立て、それによりかかるように脛《はぎ》をあらわに、おくれ毛を撫《な》でつけるのに、指のさきをなめるのを、ふと見まじいものを見たように、目を外らした。
「その絵馬なんですわ、小県さん。」
起《た》つと、坐ると、しかも背中合せでも、狭い堂の中の一つ処で、気勢《けはい》は通ずる。安達ヶ原の……
「お誓さん、気のせいだ。この絵馬は、俎《まないた》の上へ――裸体《はだか》の恋絹を縛ったのではない。白鷺を一羽仰向けにしてあるんだよ。しかもだね、料理をするのは、もの凄《すご》い鬼婆々《
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