ような、ものをいうような、ぐっぐっ、と巨《おお》きな鼻が息をするような、その鼻が舐《な》めるような、舌を出すような、蒼黄色《あおぎいろ》い顔――畜生――牡丹の根で気絶して、生死《いきしに》も知らないでいたうちの事が現《うつつ》に顕《あら》われて、お腹の中で、土蜘蛛《つちぐも》が黒い手を拡げるように動くんですもの。
帯を解いて、投げました。
ええ、男に許したのではない。
自分の腹を露出《むきだ》したんです。
芬《ぷん》と、麝香《じゃこう》の薫《かおり》のする、金襴《きんらん》の袋を解いて、長刀《なぎなた》を、この乳の下へ、平当てにヒヤリと、また芬と、丁子《ちょうじ》の香がしましたのです。」……
この薙刀を、もとのなげしに納める時は、二人がかりで、それはいいが、お誓が刃の方を支えたのだから、おかしい。
誰も、ここで、薙刀で腹を切ったり、切らせたりするとは思うまい。
――しかも、これを取はずしたという時に落したのであろう。女の長い切髪の、いつ納めたか、元結《もとゆい》を掛けて黒い水引でしめたのが落ちていた。見てさえ気味の悪いのを、静《しずか》に掛直した。お誓は偉い!……落着い
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