をするようなと、手が痺《しび》れて落したほどです。夜中に谷へ飛降りて、田沢の墓へ噛《か》みつこうか、とガチガチと歯が震える。……路傍《みちばた》のつぶれ屋を、石油を掛けて焼消そうか。牡丹の根へ毒を絞って、あの小川をのみ干そうか。
もうとても……大慈大悲に、腹帯をお守り下さいます、観音様の前には、口惜《くやし》くって、もどかしくって居堪《いたたま》らなくなったんですもの。悪念、邪心に、肝も魂も飛上って……あら神様で、祟《たたり》の鋭い、明神様に、一昨日《おととい》と、昨日《きのう》、今日……」
――誓ただひとりこの御堂《みどう》に――
「独り居れば、ひとり居るほど、血が動き、肉が震えて、つきます息も、千本の針で身体中さすようです。――前刻《さっき》も前刻、絵馬の中に、白い女の裸身《はだかみ》を仰向けにくくりつけ、膨れた腹を裂いています、安達《あだち》ヶ原の孤家《ひとつや》の、もの凄《すご》いのを見ますとね。」
(――実は、その絵馬は違っていた――)
「ああ、さぞ、せいせいするだろう。あの女は羨しいと思いますと、お腹の裡《なか》で、動くのが、動くばかりでなくなって、もそもそと這《は》う
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