いほどですわ。三反持って参りますと、六尺ずつに切りたいが、鋏《はさみ》というものもなし……庖丁ではどうであろう。まあ、手で裂いても間に合いますわ。和尚さんに手伝って三方の上へ重ねました時、つい、それまでは不信心な、何にも知らずにおりました。子育ての慈愛をなさいます、五月帯《いわたおび》のわけを聞きまして、時も時、折も折ですし、……観音様。」
 お誓が、髪を長く、すっと立って、麓《ふもと》に白い手を合わせた。
「つい女気で、紅《あか》い切を上へ積んだものですから、真上のを、内証《ないしょ》で、そっと、頂いたんです。」
「それは、めでたい。――結構ではないか、お誓さん。」
 お誓は榎の根に、今度は吻《ほっ》として憩った、それと差《さし》むかいに、小県は、より低い処に腰を置いて、片足を前に、くつろぐ状《さま》して、
「節分の夜の事だ。対手《あいて》を鬼と思いたまえ。が、それも出放題過ぎるなら、怪我……病気だと思ったらどうです。怪我や病気は誰もする。……その怪我にも、病気にも障りがなくって、赤ちゃんが、御免なさいよ、ま、出来たとする。昔から偉人には奇蹟が携わる、日を見て、月を見て、星を見て、い
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