だって、途中、牡丹のあるところを視《み》ます時の心もちは、ただお察しにまかせます。……何の罪咎《つみとが》があるんでしょう、と思うのは、身勝手な、我身ばかりで、神様や仏様の目で、ごらんになったら。」
「お誓さん、……」
 声を沈めて遮った。
「神、仏の目には、何の咎、何の罪もない。あなたのような人間を、かえって悪魔は狙うのですよ。幾年目かに朽ちた牡丹の花が咲いた……それは嘘ではありますまい。人は見て奇瑞《きずい》とするが、魔が咲かせたかも知れないんです。反対に、お誓さんが故郷へ帰った、その瑞兆《ずいちょう》が顕《あら》われたとして、しかも家の骨に地蔵尊を祭る奇特がある。功徳、恭養、善行、美事、その只中《ただなか》を狙うのが、悪魔の役です。どっちにしろ可恐《おそろ》しい、早くそこを通抜けよう。さ、あなたも目をつむって、観音様の前へおいでなさい。」
「――ある時、和尚さんが、お寺へ紅白の切《きれ》を、何ほどか寄進をして欲しいものじゃ、とおっしゃるんです。寺の用でない、諸人《しょにん》の施行《せぎょう》のためじゃけれど、この通りの貧乏寺。……ええ、私の方から、おやくに立ちますならお願い申した
前へ 次へ
全66ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング