さはちっとも知らずにいたんです。――それに牡丹亭のあとまでは、つれがありましたり、一人でも幾度も行ったり来たり、屋根のない長い廊下もおんなじに思っていましたものですから、コオトも着ないで、小県さん、浴衣に襟つき一枚何かで。――裙《すそ》へ流れる水、あの小川も、梅水に居て、座敷の奥で、水調子を聞く音がします。……牡丹はもう、枝ばかり、それも枯れていたんですが、降る雪がすっきりと、白い莟《つぼみ》に積りました。……大輪《おおりん》なのも面影に見えるようです。
向うへ、小さなお地蔵様のお堂を建てたら、お提灯《ちょうちん》に蔦《つた》の紋、養子が出来て、その人のと、二つなら嬉しいだろう。まあ極《きま》りの悪い。……わざとお賽銭箱《さいせんばこ》を置いて、宝珠の玉……違った、それはお稲荷様《いなりさま》、と思っているうちに、こんな風に傘をさして、ちらちらと、藤の花だか、鷺だかの娘になって、踊ったこともあったっけ。――傘は、ここで、畳んだか、開いてさしたかと、うっかりしました。――傘《からかさ》を、ひどい力で、上へぐいと引いたんです。天にも地にも、小県さん、観音様と、明神様のほかには、女の身体《
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