をしましたり。……逗留のうち、幾度、あの牡丹の前へ立ったでしょう。
柱一本、根太板も、親たちの手の触ったのが残っていましょう。あの骨を拾おう。どうしよう。焚《た》こうか、埋めようか。ちょっと九尺二間を建てるにしても、場所がいまの田畝《たんぼ》ではどうにもならず。(地蔵様の祠《ほこら》を建てなさい、)隠居たちがいうんです。ああ、いいわねえ、そうしましょうか。
思出しても身体《からだ》がふるえる、……
今年二月の始《はじめ》でした。……東京も、そうだったって聞いたんですが、この辺でも珍らしく、雪の少い、暖かな冬でしたの。……今夜の豆撒《まめまき》が済むと、片原で年を取って、あかんぼも二つになると、隠居たちも笑っていました。その晩――暮方……
湯上りのいい心持の処へ、ちらちら降出しました雪が嬉しくって、生意気に、……それだし、銀座辺、あの築地辺の夜ふけの辻で、つまらない悪戯《いたずら》をされました覚えもなし、またいたずらに逢ったところで、ところ久しいだけ、門《かど》なみ知っているんです。……梅水のものですよ。それで大概、挨拶《あいさつ》をして離れちまいますんですもの、道の可恐《こわ》
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