、朽倒れに潰《つぶ》れていて、清い小流《こながれ》の前に、思いがけない緋牡丹《ひぼたん》が、」
お誓は、おくれ毛を靡《なび》かし、顔を上げる。
「その花の影、水岸に、白鷺が一羽居て、それが、斑※[#「(矛+攵)/虫」、第4水準2−87−65]《はんみょう》――人を殺す大毒虫――みちおしえ、というんですがね、引啣《ひきくわ》えて、この森の空へ飛んだんです。
まだその以前、その前ですよ。片原まで来る途中、林の中の道で、途中から、不意に、無理やりに、私の雇った自動車へ乗込んだ、いやな、不気味な人相、赤い服装、赤いヘルメット帽、赤い法衣《ころも》の男が、男の子四人、同じ赤いシャツを着たのを連れて、猟銃を持ったのがありましてね。勝手な処で、山の下へ、藪《やぶ》へ入って見えなくなったのが――この山|続《つづき》のようですから、白鷺の飛んだ方角といい、社《やしろ》のこのあたりか。ずッと奥になると言いますね、大沼か。どっちかで、夢のような話だけれど、神と、魔と、いくさでもはじまりそうな気がしたものですから。」
銑吉は話すうちに、あわれに伏せたお誓の目が、憤《いきどおり》を含んで、屹《きっ》として
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