、それが無念を引きしめて、一層青味を帯びたのに驚いた――思いしことよ。……悪魔は、お誓の身にかかわりがないのでない。
「……わけを言います、小県さん、……言いますが、恥かしいのと、口惜《くやし》いのとで、息が詰って、声も出なくなりましたら、こんな、私のような、こんな身体《からだ》に、手をお掛けになるまでもありません。この柄杓の柄を、ただお離しなすって下さい。そのままのめって、人間の青い苔《こけ》……」
「いや、こうして、あなたと半分持った、柄杓の柄は離しません。」
「あの、そのお優しいお心でしたら、きつけの水を下さいまし……私は、貴方《あなた》を……おきれいだ、と申しましたわね、ねえ。」
「忘れました、そういう串戯《じょうだん》をきいていたくはないのです。」
「いえ、串戯ではないのですが。いま、あの、私は、あの薙刀で、このお腹《なか》を引破って、肝《きも》も臓腑も……」
 その水色に花野の帯が、蔀下《しとみした》の敷居に乱れて、お誓の背とともに、むこうに震えているのが見える。榎の梢がざわざわと鳴り、風が颯《さっ》と通った。
「――そこへ、貴方のお姿が、すっと雲からおさがりなすったように
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