る、黒髪のうしろ向きに、ずり落ちた褄《つま》を薄く引き、ほとんど白脛《しらはぎ》に消ゆるに近い薄紅の蹴出《けだ》しを、ただなよなよと捌《さば》きながら、堂の縁の三方を、そのうしろ向きのまま、するすると行《ゆ》き、よろよろと還《かえ》って、往《ゆ》きつ戻りつしている。その取乱した態《ふり》の、あわただしい中《うち》にも、媚《なまめか》しさは、姿の見えかくれる榎の根の荘厳に感じらるるのさえ、かえって露草の根の糸の、細く、やさしく戦《そよ》ぎ縺《もつ》れるように思わせつつ、堂の縁を往来《ゆきき》した。が、後姿のままで、やがて、片扉開いた格子に、ひたと額をつけて、じっと留まると、華奢《きゃしゃ》な肩で激しく息をした。髪が髢《かもじ》のごとくさらさらと揺れた。その立って、踏みぐくめつつも乱れた裾《すそ》に、細く白々と鳥の羽のような軽い白足袋の爪尖《つまさき》が震えたが、半身を扉に持たせ、半ばを取縋《とりすが》って、柄を高くついた、その薙刀が倒《さかさま》で……刃尖《はさき》が爪先を切ろうとしている。
戦《いくさ》は、銑吉が勝らしい。由来いかなる戦史、軍記にも、薙刀を倒《さかさま》についた方は負
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