ょう》のごとく、堆《うずたか》く築いて、青く白く、立浪《たつなみ》を砕くように床の縁下へ蟠《わだかま》ったのが、三間四面の御堂を、組桟敷のごとく、さながら枝の上に支えていて、下蔭はたちまち、ぞくりと寒い、根の空洞《うつろ》に、清水があって、翠珠《すいしゅ》を湛《たた》えて湧《わ》くのが見える。
銑吉はそこで手を浄《きよ》めた。
階段を静《しずか》に――むしろ密《そっ》と上りつつ、ハタと胸を衝《つ》いたのは、途中までは爺さんが一所に来る筈《はず》だった。鍵を、もし、錠《じょう》がささっていれば、扉は開《あ》かない、と思ったのに、格子は押附けてはあるが、合せ目が浮いていた。裡《なか》の薄暗いのは、上の大樹の茂りであろう。及腰《およびごし》ながら差覗《さしのぞ》くと、廻縁《まわりえん》の板戸は、三方とも一二枚ずつ鎖《とざ》してない。
手を扉にかけた。
裡《うち》の、その真上に、薙刀《なぎなた》がかかっている筈である。
そこで、銑吉がどんな可笑《おかし》な態《ふう》をしたかは、およそ読者の想像さるる通りである。
「お通しを願います、失礼。」
と云った。
片扉、とって引くと、床も青
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