れ、とよう。媼ン媼が言うだがええ。」
なぜか、その女の子、その声に、いや、その言托《ことづけ》をするものに、銑吉さえ一種の威のあるのを感じた。
「そんでは、旦那。」
白髪の田螺は、麦稈帽《むぎわらぼう》の田螺に、ぼつりと分れる。
二
「――何だ、薙刀《なぎなた》というのは、――絵馬の画《え》――これか。」
あの、爺い。口さきで人を薙刀に掛けたな。銑吉は御堂の格子を入って、床の右横の破欄間《やれらんま》にかかった、絵馬を視《み》て、吻《ほっ》と息を吐《つ》きつつ微笑《ほほえ》んだ。
しかし、一口に絵馬とはいうが、入念《じゅねん》の彩色《さいしき》、塗柄の蒔絵《まきえ》に唐草さえある。もっとも年数のほども分らず、納《おさめ》ぬしの文字などは見分けがつかない。けれども、塗柄を受けた服紗《ふくさ》のようなものは、紗綾《さや》か、緞子《どんす》か、濃い紫をその細工ものに縫込んだ。
武器は武器でも、念流、一刀流などの猛者《もさ》の手を経たものではない。流儀の名の、静《しずか》も優しい、婦人の奉納に違いない。
眉も胸も和《なごやか》になった。が、ここへ来て彳《たたず》む
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