ただけで、無事に助かった。旦那はまず不具《かたわ》だ。巣を見るばかりで、その祟《たた》りは、と内証《ないしょ》で声をひそめて、老巫女《おいみこ》に伺《うかがい》を立てた。されば、明神様の思召《おぼしめ》しは、鉄砲は避《よ》けもされる。また眷属《けんぞく》が怪我《けが》に打たれまいものではない。――御殿の閨《ねや》を覗《のぞ》かれ、あまつさえ、帳《とばり》の奥のその奥の産屋を――おみずからではあるまいが――お煩《うるさ》い……との事である。
 要するに、御堂の女神は、鉄砲より、研究がおきらいなのである。――
「――万事、その気でござらっしゃれよ。」
「勿論です――」
 が、まだその上にも、銑吉を一人で御堂へ行《ゆ》かせるのは、気づかいらしくもあり、好もしくない様子が見えた。すなわち明神の祠《ほこら》へは、孫八爺さんが一所に行こうという。銑吉とても、ただ怯《おど》かしばかりでもなさそうな、秘密と、奇異と、第一、人気のまるでないその祠に、入口に懸《かか》った薙刀《なぎなた》を思うと、掛釘が錆朽《さびく》ちていまいものでもなし、控えの綱など断切れていないと限らない。同行はむしろ便宜であったが。
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