首と、おのが掌にたらたらと塗《まみ》れていた。
媼が世帯ぶって、口軽に、「大ごなしが済んだあとは、わしが手でぶつぶつと切っておましょ。鷺の料理は知らぬなれど、清汁《すまし》か、味噌か、焼こうかの。」と榾《ほだ》をほだて、鍋を揺《ゆす》ぶって見せつけて、「人間の娘も、鷺の婦《おんな》も、いのち惜しさにかわりはないぞの。」といわれた時は、俎につくばい、鳥に屈《かが》み、媼に這《は》って、手をついた。断つ、断つ、ふッつりと猟を断つ、慰みの無益の殺生は、断つわいやい。
畠《はたけ》二三枚、つい近い、前畷《まえなわて》の夜の雪路《ゆきみち》を、狸が葬式を真似《まね》るように、陰々と火がともれて、人影のざわざわと通り過ぎたのは――真中《まんなか》に戸板を舁《か》いていた。――鳥旦那の、凍えて人事不省《ひとごこちなく》なったのを助け出した、行列であった。
町の病院で、二月以上煩ったが、凍傷のために、足の指二本、鼻の尖《さき》が少々、とれた、そげた、欠けた、はて何といおう、もげたと言おう、もげた。
どうも解《げ》せぬ。さて、合点のゆかない。現におつかい姫を、鉄砲で撃った猟夫は、肝を潰《つぶ》し
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