が、山賤《やましず》には口相応、といって、猟夫だとて、若い時、宿場女郎の、※[#「参らせ候」のくずし字、65−2]《まいらせそろ》もかしくも見たれど、そんなものがたとえになろうか。……若菜の二葉の青いような脈筋が透いて見えて、庖丁の当てようがござらない。容顔が美麗なで、気後《きおく》れをするげな、この痴気《たわけ》おやじと、媼はニヤリ、「鼻をそげそげ、思切って。ええ、それでのうては、こな爺《じじ》い、人殺しの解死人《げしにん》は免《のが》れぬぞ、」と告《の》り威《おど》す。――命ばかりは欲《ほし》いと思い、ここで我が鼻も薙刀《なぎなた》で引《ひき》そがりょう、恐ろしさ。古手拭《ふるてぬぐい》で、我が鼻を、頸窪《ぼんのくぼ》へ結《ゆわ》えたが、美しい女の冷い鼻をつるりと撮《つま》み、じょきりと庖丁で刎《は》ねると、ああ、あ痛《つつ》、焼火箸《やけひばし》で掌《てのひら》を貫かれたような、その疼痛《いたさ》に、くらんだ目が、はあ、でんぐり返って気がつけば、鼻のかわりに、細長い鳥の嘴《くちばし》を握っていて、俎の上には、ただ腹を解いた白鷺が一羽。蓑毛も、胸毛も、散りぢりに、血は俎の上と、鷺の
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