どたん》とも、八寒地獄の磔柱《はりつけばしら》とも、譬《たと》えように口も利けぬ。ただ吹雪に怪飛《けしと》んで、亡者のごとく、ふらふらと内へ戻ると、媼巫女《うばみこ》は、台所の筵敷《むしろじき》に居敷《いしか》り、出刃庖丁をドギドギと研いでいて、納戸の炉に火が燃えて、破鍋《われなべ》のかかったのが、阿鼻とも焦熱とも凄《すさま》じい。……「さ、さ、帯を解け、しての、死骸を俎《まないた》の上へ、」というが、石でも銅《あかがね》でもない。台所の俎で。……媼《うば》の形相は、絵に描いた安達《あだち》ヶ原と思うのに、頸《くび》には、狼の牙《きば》やら、狐の目やら、鼬《いたち》の足やら、つなぎ合せた長数珠《ながじゅず》に三重《みえ》に捲《ま》きながらの指図でござった。
……不思議というは、青い腰も血の胸も、死骸はすっくり俎の上へ納って、首だけが土間へがっくりと垂れる。めったに使ったことのない、大俵の炭をぶちまけたように髻《もとどり》が砕けて、黒髪が散りかかる雪に敷いた。媼が伸上り、じろりと視《み》て、「天人のような婦《おんな》やな、羽衣を剥《む》け、剥け。」と言う。襟も袖も引き※[#「てへん+毟
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