る気だろう。しかしその言《ことば》の通りにすると、蓑《みの》を着よ、そのようなその羅紗《らしゃ》の、毛くさい破《やぶれ》帽子などは脱いで、菅笠《すげがさ》を被《かぶ》れという。そんで、へい、苧殻《おがら》か、青竹の杖《つえ》でもつくか、と聞くと、それは、ついてもつかいでも、のう、もう一度、明神様の森へ走って、旦那が傍《そば》に居ようと、居まいと、その若い婦女《おんな》の死骸《しがい》を、蓑の下へ、膚《はだ》づけに負いまして、また早や急いで帰れ、と少し早めに糸車を廻わしている。
いや、もう、肝魂《きもたま》を消して、さきに死骸の傍を離れる時から、那須颪《なすおろし》が真黒《まっくろ》になって、再び、日の暮方の雪が降出したのが、今度行向う時は、向風の吹雪になった。が、寒さも冷たさも猟夫は覚えぬ。ただ面《つら》を打って巴卍《ともえまんじ》に打ち乱れる紛泪《ふんぱく》の中に、かの薙刀《なぎなた》の刃がギラリと光って、鼻耳をそがれはしまいか。幾度立ちすくみになったやら。……
我が手で、鉄砲でうった女の死骸を、雪を掻《か》いて膚におぶった、そ、その心持というものは、紅蓮《ぐれん》大紅蓮の土壇《
前へ
次へ
全66ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング