遠めがねを、それも白布で巻いたので、熟《じっ》とどこかの樹を枝を凝視《みつ》めていて、ものも言わない。
猟夫は最期《いまわ》と覚悟をした。……
そこで、急いで我が屋へ帰って、不断、常住、無益な殺生を、するな、なせそと戒める、古女房の老|巫女《いちこ》に、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐに梁《はり》へ掛けたそうに褌《ふんどし》をしめなおすと、梓《あずさ》の弓を看板に掛けて家業にはしないで、茅屋《あばらや》に隠れてはいるが、うらないも祈祷《きとう》も、その道の博士だ――と言う。どういうものか、正式に学校から授けない、ものの巧者は、学士を飛越えて博士になる。博士|神巫《いちこ》が、亭主が人殺しをして、唇の色まで変って震えているものを、そんな事ぐらいで留《や》めはしない……冬の日の暗い納戸で、糸車をじい……じい……村も浮世も寒さに喘息《ぜんそく》を病んだように響かせながら、猟夫に真裸《まっぱだか》になれ、と歯茎を緊《し》めて厳《おごそか》に言った。経帷子《きょうかたびら》にでも着換えるのか、そんな用意はねえすべい。……井戸川で凍死《こごえじに》でもさせ
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