ぢ》が耳《みゝ》に蚯蚓《みゝず》に似《に》たりや。
 件《くだん》の古井戸《ふるゐど》は、先住《せんぢう》の家《いへ》の妻《つま》ものに狂《くる》ふことありて其處《そこ》に空《むな》しくなりぬとぞ。朽《く》ちたる蓋《ふた》犇々《ひし/\》として大《おほ》いなる石《いし》のおもしを置《お》いたり。友《とも》は心《こゝろ》強《がう》にして、小夜《さよ》の螢《ほたる》の光《ひかり》明《あか》るく、梅《うめ》の切株《きりかぶ》に滑《なめら》かなる青苔《せいたい》の露《つゆ》を照《てら》して、衝《つ》と消《き》えて、背戸《せど》の藪《やぶ》にさら/\とものの歩行《ある》く氣勢《けはひ》するをも恐《おそ》れねど、我《われ》は彼《か》の雨《あめ》の夜《よ》を惱《なや》みし時《とき》、朽木《くちき》の燃《も》ゆる、はた板戸《いたど》洩《も》る遠灯《とほともし》、畦《あぜ》行《ゆ》く小提灯《こぢやうちん》の影《かげ》一《ひと》つ認《みと》めざりしこそ幸《さいはひ》なりけれ。思《おも》へば臆病《おくびやう》の、目《め》を塞《ふさ》いでや歩行《ある》きけん、降《ふり》しきる音《おと》は徑《こみち》を挾《さし
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