》いまさず、いろと提灯《ちやうちん》は持《も》たぬ身《み》の、藪《やぶ》の前《まへ》、祠《ほこら》のうしろ、左右《さいう》畑《はたけ》の中《なか》を拾《ひろ》ひて、蛇《じや》の目《め》の傘《からかさ》脊筋《せすぢ》さがりに引《ひつ》かつぎたるほどこそよけれ、たかひくの路《みち》の、ともすれば、ぬかるみの撥《はね》ひやりとして、然《さ》らぬだに我《わ》が心《こゝろ》覺束《おぼつか》なきを、やがて追分《おひわけ》の方《かた》に出《いで》んとして、森《もり》の下《した》に入《い》るよとすれば呀《や》、眞暗《まつくら》三寶《さんばう》黒白《あやめ》も分《わ》かず。今《いま》までは、春雨《はるさめ》に、春雨《はるさめ》にしよぼと濡《ぬ》れたもよいものを、夏《なつ》はなほと、はら/\はらと降《ふ》りかゝるを、我《われ》ながらサテ情知《なさけし》り顏《がほ》の袖《そで》にうけて、綽々《しやく/\》として餘裕《よゆう》ありし傘《からかさ》とともに肩《かた》をすぼめ、泳《およ》ぐやうなる姿《すがた》して、右手《めて》を探《さぐ》れば、竹垣《たけがき》の濡《ぬ》れたるが、する/\と手《て》に觸《さは》る。
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