やうで、まんじ巴《ともゑ》の中空《なかぞら》を渡《わた》る橋《はし》は、宛然《さながら》に玉《たま》の棧橋《かけはし》かと思《おも》はれました。
 人間《にんげん》は増長《ぞうちやう》します。――積雪《せきせつ》のために汽車《きしや》が留《とま》つて難儀《なんぎ》をすると言《い》へば――旅籠《はたご》は取《と》らないで、すぐにお米《よね》さんの許《もと》へ、然《さ》うだ、行《い》つて行《ゆ》けなさうな事《こと》はない、が、しかし……と、そんな事《こと》を思《おも》つて、早《は》や壁《かべ》も天井《てんじやう》も雪《ゆき》の空《そら》のやうに成《な》つた停車場《ステエシヨン》に、しばらく考《かんが》へて居《ゐ》ましたが、餘《あま》り不躾《ぶしつけ》だと己《おのれ》を制《せい》して、矢張《やつぱ》り一旦《いつたん》は宿《やど》に着《つ》く事《こと》にしましたのです。ですから、同列車《どうれつしや》の乘客《じようかく》の中《うち》で、停車場《ステエシヨン》を離《はな》れましたのは、多分《たぶん》私《わたし》が一番《いちばん》あとだつたらうと思《おも》ひます。
 大雪《おほゆき》です。
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