があつたのです。で其《そ》の望《のぞみ》を煽《あふ》るために、最《も》う福井《ふくゐ》あたりから酒《さけ》さへ飮《の》んだのでありますが、醉《よ》ひもしなければ、心《こゝろ》も定《きま》らないのでありました。
 唯《たゞ》一|夜《や》、徒《いたづ》らに、思出《おもひで》の武生《たけふ》の町《まち》に宿《やど》つても構《かま》はない。が、宿《やど》りつゝ、其處《そこ》に虎杖《いたどり》の里《さと》を彼方《かなた》に視《み》て、心《こゝろ》も足《あし》も運《はこ》べない時《とき》の儚《はかな》さには尚《な》ほ堪《た》へられまい、と思《おも》ひなやんで居《ゐ》ますうちに――
 汽車《きしや》は着《つ》きました。
 目《め》をつむつて、耳《みゝ》を壓《おさ》へて、發車《はつしや》を待《ま》つのが、三|分《ぷん》、五|分《ふん》、十|分《ぷん》十五|分《ふん》――やゝ三十|分《ぷん》過《す》ぎて、やがて、驛員《えきいん》に其《そ》の不通《ふつう》の通達《つうたつ》を聞《き》いた時《とき》は!
 雪《ゆき》が其《その》まゝの待女郎《まちぢよらう》に成《な》つて、手《て》を取《と》つて導《みちび》く
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