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「雪《ゆき》やこんこ、
 霰《あられ》やこんこ。」
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 大雪《おほゆき》です――が、停車場前《ステエシヨンまへ》の茶店《ちやみせ》では、まだ小兒《せうに》たちの、そんな聲《こゑ》が聞《きこ》えて居《ゐ》ました。其《そ》の時分《じぶん》は、山《やま》の根笹《ねざさ》を吹《ふ》くやうに、風《かぜ》もさら/\と鳴《な》りましたつけ。町《まち》へ入《はひ》るまでに日《ひ》もとつぷりと暮果《くれは》てますと、
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「爺《ぢい》さイのウ婆《ばゞ》さイのウ、
 綿雪《わたゆき》小雪《こゆき》が降《ふ》るわいのウ、
 雨戸《あまど》も小窓《こまど》もしめさつし。」
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 と寂《さび》しい侘《わび》しい唄《うた》の聲《こゑ》――雪《ゆき》も、小兒《こども》が爺婆《ぢいばあ》に化《ば》けました。――風《かぜ》も次第《しだい》に、ぐわう/\と樹《き》ながら山《やま》を搖《ゆす》りました。
 店屋《みせや》さへ最《も》う戸《と》が閉《しま》る。……旅籠屋《はたごや》も門《もん》を閉《とざ》しました。
 家名《いへな》も何《なに
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