はいご》にあるか、……吸《す》はるゝやうに消《き》えました。
 と思《おも》ふと、忽然《こつねん》として、顯《あらは》れて、むくと躍《をど》つて、卓子《テエブル》の眞中《まんなか》へ高《たか》く乘《の》つた。雪《ゆき》を拂《はら》へば咽喉《のど》白《しろ》くして、茶《ちや》の斑《まだら》なる、畑將軍《はたしやうぐん》の宛然《さながら》犬獅子《けんじし》……
 ウオヽヽヽ!
 肩《かた》を聳《そばだ》て、前脚《まへあし》をスクと立《た》てて、耳《みゝ》が其《そ》の圓天井《まるてんじやう》へ屆《とゞ》くかとして、嚇《くわつ》と大口《おほぐち》を開《あ》けて、まがみは遠《とほ》く黒板《こくばん》に呼吸《いき》を吐《は》いた――
 黒板《こくばん》は一面《いちめん》眞白《まつしろ》な雪《ゆき》に變《かは》りました。
 此《こ》の猛犬《まうけん》は、――土地《とち》ではまだ、深山《みやま》にかくれて活《い》きて居《ゐ》る事《こと》を信《しん》ぜられて居《ゐ》ます――雪中行軍《せつちうかうぐん》に擬《ぎ》して、中《なか》の河内《かはち》を柳《やな》ヶ|瀬《せ》へ拔《ぬ》けようとした冒險《ばうけん》
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