とほ》るやうでした。
 ウオヽヽヽ!
 俄然《がぜん》として耳《みゝ》を噛《か》んだのは、凄《すご》く可恐《おそろし》い、且《か》つ力《ちから》ある犬《いぬ》の聲《こゑ》でありました。
 ウオヽヽヽ!
 虎《とら》の嘯《うそぶ》くとよりは、龍《りう》の吟《ぎん》ずるが如《ごと》き、凄烈《せいれつ》悲壯《ひそう》な聲《こゑ》であります。
 ウオヽヽヽ!
 三聲《みこゑ》を續《つゞ》けて鳴《な》いたと思《おも》ふと……雪《ゆき》をかついだ、太《ふと》く逞《たくま》しい、しかし痩《や》せた、一頭《いつとう》の和犬《わけん》、むく犬《いぬ》の、耳《みゝ》の青竹《あをだけ》をそいだやうに立《た》つたのが、吹雪《ふゞき》の瀧《たき》を、上《うへ》の峰《みね》から、一直線《いつちよくせん》に飛下《とびお》りた如《ごと》く思《おも》はれます。忽《たちま》ち私《わたし》の傍《そば》を近々《ちか/″\》と横《よこ》ぎつて、左右《さいう》に雪《ゆき》の白泡《しらあわ》を、ざつと蹴立《けた》てて、恰《あたか》も水雷艇《すゐらいてい》の荒浪《あらなみ》を切《き》るが如《ごと》く猛然《まうぜん》として進《すゝ》み
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