たのを、甘露《かんろ》を灌《そゝ》ぐやうに飮《の》まされました。
ために私《わたし》は蘇返《よみがへ》りました。
「冷水《おひや》を下《くだ》さい。」
最《も》う、それが末期《まつご》だと思《おも》つて、水《みづ》を飮《の》んだ時《とき》だつたのです。
脚氣《かつけ》を煩《わづら》つて、衝心《しようしん》をしかけて居《ゐ》たのです。其《そ》のために東京《とうきやう》から故郷《くに》に歸《かへ》る途中《とちう》だつたのでありますが、汚《よご》れくさつた白絣《しろがすり》を一|枚《まい》きて、頭陀袋《づだぶくろ》のやうな革鞄《かばん》一《ひと》つ掛《か》けたのを、玄關《げんくわん》さきで斷《ことわ》られる處《ところ》を、泊《と》めてくれたのも、螢《ほたる》と紫陽花《あぢさゐ》が見透《みとほ》しの背戸《せど》に涼《すゞ》んで居《ゐ》た、其《そ》のお米《よね》さんの振向《ふりむ》いた瞳《め》の情《なさけ》だつたのです。
水《みづ》と言《い》へば、せい/″\米《こめ》の磨汁《とぎしる》でもくれさうな處《ところ》を、白雪《しらゆき》に蛋黄《きみ》の情《なさけ》。――萌黄《もえぎ》の蚊帳《か
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