つあると、見《み》て來《き》たやうな噂《うはさ》をしました。何故《なぜ》か、――地方《ゐなか》は分《わ》けて結婚期《けつこんき》が早《はや》いのに――二十六七まで縁《えん》に着《つ》かないで居《ゐ》たからです。
(しかし、……やがて知事《ちじ》の妾《おもひもの》に成《な》つた事《こと》は前《まへ》に一寸《ちよつと》申《まを》しました。)
 私《わたし》はよく知《し》つて居《ゐ》ます――六本指《ろつぽんゆび》なぞと、氣《け》もない事《こと》です。確《たしか》に見《み》ました。しかも其《そ》の雪《ゆき》なす指《ゆび》は、摩耶夫人《まやぶにん》が召《め》す白《しろ》い細《ほそ》い花《はな》の手袋《てぶくろ》のやうに、正《まさ》に五瓣《ごべん》で、其《それ》が九死一生《きうしいつしやう》だつた私《わたし》の額《ひたひ》に密《そつ》と乘《の》り、輕《かる》く胸《むね》に掛《かゝ》つたのを、運命《うんめい》の星《ほし》を算《かぞ》へる如《ごと》く熟《じつ》と視《み》たのでありますから。――
 また其《そ》の手《て》で、硝子杯《コツプ》の白雪《しらゆき》に、鷄卵《たまご》の蛋黄《きみ》を溶《と》かし
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