や》、紅《べに》の麻《あさ》、……蚊《か》の酷《ひど》い處《ところ》ですが、お米《よね》さんの出入《ではひ》りには、はら/\と螢《ほたる》が添《そ》つて、手《て》を映《うつ》し、指環《ゆびわ》を映《うつ》し、胸《むね》の乳房《ちぶさ》を透《すか》して、浴衣《ゆかた》の染《そめ》の秋草《あきぐさ》は、女郎花《をみなへし》を黄《き》に、萩《はぎ》を紫《むらさき》に、色《いろ》あるまでに、蚊帳《かや》へ影《かげ》を宿《やど》しました。
「まあ、汗《あせ》びつしより。」
と汚《きたな》い病苦《びやうく》の冷汗《ひやあせ》に……そよ/\と風《かぜ》を惠《めぐ》まれた、淺葱色《あさぎいろ》の水團扇《みづうちは》に、幽《かすか》に月《つき》が映《さ》しました。……
大恩《だいおん》と申《まを》すは此《これ》なのです。――
おなじ年《とし》、冬《ふゆ》のはじめ、霜《しも》に緋葉《もみぢ》の散《ち》る道《みち》を、爽《さわやか》に故郷《こきやう》から引返《ひつかへ》して、再《ふたゝ》び上京《じやうきやう》したのでありますが、福井《ふくゐ》までには及《およ》びません、私《わたし》の故郷《こきやう》か
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