らは其《それ》から七|里《り》さきの、丸岡《まるをか》の建場《たてば》に俥《くるま》が休《やす》んだ時《とき》立合《たちあは》せた上下《じやうげ》の旅客《りよかく》の口々《くち/″\》から、もうお米《よね》さんの風説《うはさ》を聞《き》きました。
知事《ちじ》の妾《おもひもの》と成《な》つて、家《いへ》を出《で》たのは、其《そ》の秋《あき》だつたのでありました。
こゝはお察《さつ》しを願《ねが》ひます。――心易《こゝろやす》くは禮手紙《れいてがみ》、たゞ音信《おとづれ》さへ出來《でき》ますまい。
十六七|年《ねん》を過《す》ぎました。――唯今《たゞいま》の鯖江《さばえ》、鯖波《さばなみ》、今庄《いましやう》の驛《えき》が、例《れい》の音《おと》に聞《きこ》えた、中《なか》の河内《かはち》、木《き》の芽峠《めたうげ》、湯《ゆ》の尾峠《をたうげ》を、前後左右《ぜんごさいう》に、高《たか》く深《ふか》く貫《つらぬ》くのでありまして、汽車《きしや》は雲《くも》の上《うへ》を馳《はし》ります。
間《あひ》の宿《しゆく》で、世事《せじ》の用《よう》は聊《いさゝ》かもなかつたのでありますが、
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