可懷《なつかしさ》の餘《あま》り、途中《とちう》で武生《たけふ》へ立寄《たちよ》りました。
内證《ないしよう》で……何《なん》となく顏《かほ》を見《み》られますやうで、ですから内證《ないしよう》で、其《そ》の蔦屋《つたや》へ參《まゐ》りました。
皐月《さつき》上旬《じやうじゆん》でありました。
三
門《かど》、背戸《せど》の清《きよ》き流《ながれ》、軒《のき》に高《たか》き二本柳《ふたもとやなぎ》、――其《そ》の青柳《あをやぎ》の葉《は》の繁茂《しげり》――こゝに彳《たゝず》み、あの背戸《せど》に團扇《うちは》を持《も》つた、其《そ》の姿《すがた》が思《おも》はれます。それは昔《むかし》のまゝだつたが、一棟《ひとむね》、西洋館《せいやうくわん》が別《べつ》に立《た》ち、帳場《ちやうば》も卓子《テエブル》を置《お》いた受附《うけつけ》に成《な》つて、蔦屋《つたや》の樣子《やうす》はかはつて居《ゐ》ました。
代替《だいがは》りに成《な》つたのです。――
少《すこ》しばかり、女中《ぢよちう》に心《こゝろ》づけも出來《でき》ましたので、それとなく、お米《よね》さん
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