の消息《せうそく》を聞《き》きますと、蔦屋《つたや》も蔦龍館《てうりうくわん》と成《な》つた發展《はつてん》で、持《もち》の此《こ》の女中《ぢよちう》などは、京《きやう》の津《つ》から來《き》て居《ゐ》るのださうで、少《すこ》しも恩人《おんじん》の事《こと》を知《し》りません。
 番頭《ばんとう》を呼《よ》んでもらつて訊《たづ》ねますと、――勿論《もちろん》其《そ》の頃《ころ》の男《をとこ》ではなかつたが――此《これ》はよく知《し》つて居《ゐ》ました。
 蔦屋《つたや》は、若主人《わかしゆじん》――お米《よね》さんの兄《あに》――が相場《さうば》にかゝつて退轉《たいてん》をしたさうです。お米《よね》さんにまけない美人《びじん》をと言《い》つて、若主人《わかしゆじん》は、祇園《ぎをん》の藝妓《げいしや》をひかして女房《にようばう》にして居《ゐ》たさうでありますが、それも亡《な》くなりました。
 知事《ちじ》――其《そ》の三|年前《ねんぜん》に亡《な》く成《な》つた事《こと》は、私《わたし》も新聞《しんぶん》で知《し》つて居《ゐ》たのです――其《そ》のいくらか手當《てあて》が殘《のこ》つた
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