のだらうと思《おも》はれます。當時《たうじ》は町《まち》を離《はな》れた虎杖《いたどり》の里《さと》に、兄妹《きやうだい》がくらして、若主人《わかしゆじん》の方《はう》は、町中《まちなか》の或會社《あるくわいしや》へ勤《つと》めて居《ゐ》ると、此《こ》の由《よし》、番頭《ばんとう》が話《はな》してくれました。一昨年《いつさくねん》の事《こと》なのです。
――いま私《わたし》は、可恐《おそろし》い吹雪《ふゞき》の中《なか》を、其處《そこ》へ志《こゝろざ》して居《ゐ》るのであります――
が、さて、一昨年《いつさくねん》の其《そ》の時《とき》は、翌日《よくじつ》、半日《はんにち》、いや、午後《ごご》三|時頃《じごろ》まで、用《よう》もないのに、女中《ぢよちう》たちの蔭《かげ》で怪《あやし》む氣勢《けはひ》のするのが思《おも》ひ取《と》られるまで、腕組《うでぐみ》が、肘枕《ひぢまくら》で、やがて、夜具《やぐ》を引被《ひつかぶ》つてまで且《か》つ思《おも》ひ、且《か》つ惱《なや》み、幾度《いくたび》か逡巡《しゆんじゆん》した最後《さいご》に、旅館《りよくわん》をふら/\と成《な》つて、たうと
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