う恩人《おんじん》を訪《たづ》ねに出《で》ました。
 故《わざ》と途中《とちう》、餘所《よそ》で聞《き》いて、虎杖村《いたどりむら》に憧憬《あこが》れ行《ゆ》く。……
 道《みち》は鎭守《ちんじゆ》がめあてでした。
 白《しろ》い、靜《しづか》な、曇《くも》つた日《ひ》に、山吹《やまぶき》も色《いろ》が淺《あさ》い、小流《こながれ》に、苔蒸《こけむ》した石《いし》の橋《はし》が架《かゝ》つて、其《そ》の奧《おく》に大《おほ》きくはありませんが深《ふか》く神寂《かんさ》びた社《やしろ》があつて、大木《たいぼく》の杉《すぎ》がすら/\と杉《すぎ》なりに並《なら》んで居《ゐ》ます。入口《いりぐち》の石《いし》の鳥居《とりゐ》の左《ひだり》に、就中《とりわけ》暗《くら》く聳《そび》えた杉《すぎ》の下《もと》に、形《かたち》はつい通《とほ》りでありますが、雪難之碑《せつなんのひ》と刻《きざ》んだ、一|基《き》の石碑《せきひ》が見《み》えました。
 雪《ゆき》の難《なん》――荷擔夫《にかつぎふ》、郵便配達《いうびんはいたつ》の人《ひと》たち、其《そ》の昔《むかし》は數多《あまた》の旅客《りよかく》
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