》られた此《こ》の武生《たけふ》の中《うち》でも、其《そ》の隨一《ずゐいち》の旅館《りよくわん》の娘《むすめ》で、二十六の年《とし》に、其《そ》の頃《ころ》の近國《きんごく》の知事《ちじ》の妾《おもひもの》に成《な》りました……妾《めかけ》とこそ言《い》へ、情深《なさけぶか》く、優《やさし》いのを、昔《いにしへ》の國主《こくしゆ》の貴婦人《きふじん》、簾中《れんちう》のやうに稱《たゝ》へられたのが名《な》にしおふ中《なか》の河内《かはち》の山裾《やますそ》なる虎杖《いたどり》の里《さと》に、寂《さび》しく山家住居《やまがずまひ》をして居《ゐ》るのですから。此《こ》の大雪《おほゆき》の中《なか》に。

        二

 流《なが》るゝ水《みづ》とともに、武生《たけふ》は女《をんな》のうつくしい處《ところ》だと、昔《むかし》から人《ひと》が言《い》ふのであります。就中《なかんづく》、蔦屋《つたや》――其《そ》の旅館《りよくわん》の――お米《よね》さん(恩人《おんじん》の名《な》です)と言《い》へば、國々《くに/″\》評判《ひやうばん》なのでありました。
 まだ汽車《きしや》の通《つう
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