屋《かぢや》が軒《のき》を並《なら》べて、其《そ》の中《なか》に、柳《やなぎ》とともに目立《めだ》つのは旅館《りよくわん》であります。
 が、最《も》う目貫《めぬき》の町《まち》は過《す》ぎた、次第《しだい》に場末《ばすゑ》、町端《まちはづ》れの――と言《い》ふとすぐに大《おほき》な山《やま》、嶮《けはし》い坂《さか》に成《な》ります――あたりで。……此《こ》の町《まち》を離《はな》れて、鎭守《ちんじゆ》の宮《みや》を拔《ぬ》けますと、いま行《ゆ》かうとする、志《こゝろざ》す處《ところ》へ着《つ》く筈《はず》なのです。
 それは、――其許《そこ》は――自分《じぶん》の口《くち》から申兼《まをしか》ねる次第《しだい》でありますけれども、私《わたし》の大恩人《だいおんじん》――いえ/\恩人《おんじん》で、そして、夢《ゆめ》にも忘《わす》れられない美《うつく》しい人《ひと》の侘住居《わびずまひ》なのであります。
 侘住居《わびずまひ》と申《まを》します――以前《いぜん》は、北國《ほつこく》に於《おい》ても、旅館《りよくわん》の設備《せつび》に於《おい》ては、第一《だいいち》と世《よ》に知《し
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