呼吸《いき》を引《ひ》く。目口《めくち》に吹込《ふきこ》む粉雪《こゆき》に、ばツと背《せ》を向《む》けて、そのたびに、風《かぜ》と反對《はんたい》の方《はう》へ眞俯向《まうつむ》けに成《な》つて防《ふせ》ぐのであります。恁《か》う言《い》ふ時《とき》は、其《そ》の粉雪《こゆき》を、地《ぢ》ぐるみ煽立《あふりた》てますので、下《した》からも吹上《ふきあ》げ、左右《さいう》からも吹捲《ふきま》くつて、よく言《い》ふことですけれども、面《おもて》の向《む》けやうがないのです。
 小兒《こども》の足駄《あしだ》を思《おも》ひ出《だ》した頃《ころ》は、實《じつ》は最《も》う穿《はき》ものなんぞ、疾《とう》の以前《いぜん》になかつたのです。
 しかし、御安心《ごあんしん》下《くだ》さい。――雪《ゆき》の中《なか》を跣足《はだし》で歩行《ある》く事《こと》は、都會《とくわい》の坊《ぼつ》ちやんや孃《ぢやう》さんが吃驚《びつくり》なさるやうな、冷《つめた》いものでないだけは取柄《とりえ》です。ズボリと踏込《ふみこ》んだ一息《ひといき》の間《あひだ》は、冷《つめた》さ骨髓《こつずゐ》に徹《てつ》するので
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