を越《こ》えても、窶《やつ》れても、今《いま》も其《その》美《うつく》しさ。片田舍《かたゐなか》の虎杖《いたどり》になぞ世《よ》にある人《ひと》とは思《おも》はれません。
ために、音信《おとづれ》を怠《おこた》りました。夢《ゆめ》に所《ところ》がきをするやうですから。……とは言《い》へ、一《ひと》つは、日《ひ》に増《ま》し、不思議《ふしぎ》に色《いろ》の濃《こ》く成《な》る爐《ろ》の右左《みぎひだり》の人《ひと》を憚《はゞか》つたのであります。
音信《おとづれ》して、恩人《おんじん》に禮《れい》をいたすのに仔細《しさい》はない筈《はず》。雖然《けれども》、下世話《げせわ》にさへ言《い》ひます。慈悲《じひ》すれば、何《なん》とかする。……で、恩人《おんじん》と言《い》ふ、其《そ》の恩《おん》に乘《じやう》じ、情《なさけ》に附入《つけい》るやうな、賤《いや》しい、淺《あさ》ましい、卑劣《ひれつ》な、下司《げす》な、無禮《ぶれい》な思《おも》ひが、何《ど》うしても心《こゝろ》を離《はな》れないものですから、ひとり、自《みづか》ら憚《はゞか》られたのでありました。
私《わたし》は今《いま
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