《みち》が絶《た》えますと、こゝに私《わたし》一人《ひとり》きりで、五日《いつか》も六日《むいか》も暮《くら》しますよ。」
 とほろりとしました。
「其《そ》のかはり夏《なつ》は涼《すゞ》しうございます。避暑《ひしよ》に行《い》らつしやい……お宿《やど》をしますよ。……其《そ》の時分《じぶん》には、降《ふ》るやうに螢《ほたる》が飛《と》んで、此《こ》の水《みづ》には菖蒲《あやめ》が咲《さ》きます。」

 夜汽車《よぎしや》の火《ひ》の粉《こ》が、木《き》の芽峠《めたうげ》を螢《ほたる》に飛《と》んで、窓《まど》には其《そ》の菖蒲《あやめ》が咲《さ》いたのです――夢《ゆめ》のやうです。………あの老尼《らうに》は、お米《よね》さんの守護神《まもりがみ》――はてな、老人《らうじん》は、――知事《ちじ》の怨靈《をんりやう》ではなかつたか。
 そんな事《こと》まで思《おも》ひました。
 圓髷《まるまげ》に結《ゆ》つて、筒袖《こひぐち》を着《き》た人《ひと》を、しかし、其《その》二人《ふたり》は却《かへ》つて、お米《よね》さんを祕密《ひみつ》の霞《かすみ》に包《つゝ》みました。
 三十路《みそぢ》
前へ 次へ
全28ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング