のが、目《め》くるめくばかりに思《おも》はれました。
「私《わたし》は……關《せき》……」
と名《な》を申《まを》して、
「蔦屋《つたや》さんのお孃《ぢやう》さんに、お目《め》にかゝりたくて參《まゐ》りました。」
「米《よね》は私《わたし》でございます。」
と顏《かほ》を上《あ》げて、清《すゞ》しい目《め》で熟《じつ》と視《み》ました。
私《わたし》の額《ひたひ》は汗《あせ》ばんだ。――あのいつか額《ひたひ》に置《お》かれた、手《て》の影《かげ》ばかり白《しろ》く映《うつ》る。
「まあ、關《せき》さん。――おとなにお成《な》りなさいました……」
此《これ》ですもの、可懷《なつかし》さはどんなでせう。
しかし、こゝで私《わたし》は初戀《はつこひ》、片《かた》おもひ、戀《こひ》の愚癡《ぐち》を言《い》ふのではありません。
……此《こ》の凄《すご》い吹雪《ふゞき》の夜《よ》、不思議《ふしぎ》な事《こと》に出《で》あひました、其《そ》のお話《はなし》をするのであります。
四
その時《とき》は、四疊半《かこひ》ではありません。が、爐《ろ》を切《き》つた茶《ちや》
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