幻《まぼろし》に見《み》るやうでありました。
夢《ゆめ》にばかり、現《うつゝ》にばかり、十|幾年《いくねん》。
不思議《ふしぎ》にこゝで逢《あ》ひました――面影《おもかげ》は、黒髮《くろかみ》に笄《かうがい》して、雪《ゆき》の裲襠《かいどり》した貴夫人《きふじん》のやうに遙《はるか》に思《おも》つたのとは全然《まるで》違《ちが》ひました。黒繻子《くろじゆす》の襟《えり》のかゝつた縞《しま》の小袖《こそで》に、些《ちつ》とすき切《ぎ》れのあるばかり、空色《そらいろ》の絹《きぬ》のおなじ襟《えり》のかゝつた筒袖《こひぐち》を、帶《おび》も見《み》えないくらゐ引合《ひきあは》せて、細《ほつそ》りと着《き》て居《ゐ》ました。
其《そ》の姿《すがた》で手《て》をつきました。あゝ、うつくしい白《しろ》い指《ゆび》、結立《ゆひた》ての品《ひん》のいゝ圓髷《まるまげ》の、情《なさけ》らしい柔順《すなほ》な髱《たぼ》の耳朶《みゝたぶ》かけて、雪《ゆき》なす項《うなじ》が優《やさ》しく清《きよ》らかに俯向《うつむ》いたのです。
生意氣《なまいき》に杖《ステツキ》を持《も》つて立《た》つて居《ゐ》る
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