はとてもいけないって云いました、新さん、私ゃじっと堪《こら》えていたけれどね、傍《そば》に居た老年《としより》の婦人《おんな》の方が深切に、(お気の毒様ですねえ。)
といってくれた時は、もうとても我慢が出来なくなって泣きましたよ。薬を取って溜《たまり》へ行ッちゃ、笑って見せていたけれど、どんなに情《なさけ》なかったでしょう。
様子に見せまいと思っても、ツイ胸が迫って来るもんですから、合乗《あいのり》で帰る道で私の顔を御覧なすって、
(何だねえ、どうしたの、妙な顔をして。)
と笑いながらいって、憎らしいほどちゃんと澄《すま》していらっしゃるんだもの。気分は確《たしか》だし、何にも知らないで、と思うとかわいそうで、私ゃかわいそうで。
今更じゃないけれど、こんな気立《きだて》の可い、優しい、うつくしい方がもう亡くなるのかと思ったら、ねえ、新さん、いつもより百倍も千倍も、優しい、美しい、立派な方に見えたろうじゃありませんか。誂《あつら》えて拵《こしら》えたような、こういう方がまたあろうか、と可惜《あったら》もので。可惜もので。大事な姉さんを一人、もう、どうしようと、我慢が出来なくなって
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