ね、車が石の上へ乗った時、私ゃソッと抱いてみたわ。」とぞ微笑《ほほえみ》たる、目には涙を宿したり。
「僕は何だか夢のようだ。」
「私だってほんとうにゃなりません位ひどくおやつれなすったから、ま、今に覧《み》てあげて下さいな。
電報でもかけようか、と思ったのに。よく早く出京《で》て来てね。始終上杉さん、上杉さんッていっていらっしゃるから、どんなにか喜ぶでしょう。しかしね、急にまたお逢いなすっちゃ激するから、そッとして、いまに目をおさましなすッてから私がよくそういって、落着かしてからお逢いなさいましよ。腕車《くるま》やら、汽車やらで、新さん、あなたもお疲れだろうに、すぐこんなことを聞かせまして、もう私ゃ申訳がございません。折角お着き申していながら、どうしたら可《い》いでしょう、堪忍なさいよ。」
菊の露
「もうもう思入《おもいれ》ここで泣いて、ミリヤアドの前じゃ、かなしい顔をしちゃいけません。そっとしておいてあげないと、お医師《いしゃ》が見えて、私が立廻ってさえ、早や何か御自分の身体《からだ》に異《かわ》ったことがあるのかと思って、直《すぐ》に熱が高くなりますからね。
それ
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