たわら》より、
「喧嘩《けんか》してはいけません。また動悸《どうき》を高くします。」
「ほんとに串戯《じょうだん》は止《よ》して新さん、きづかうほどのことはないのでしょうね。」
「いいえ、わけやないんだそうだけれど、転地しなけりゃ不可《いけない》ッていうんです。何、症が知れてるの。転地さえすりゃ何でもないって。」
「そんならようござんすけれど、そして何時の汽車だッけね。」
「え、もうそろそろ。」
 と予は椅子《いす》を除《の》けてぞ立ちたる。
「ミリヤアド。」
 ミリヤアドは頷《うなず》きぬ。
「高津さん。」
「はい、じゃ、まあいっていらっしゃいまし、もうねえ、こんなにおなんなすったんですから、ミリヤアドのことはおきづかいなさらないで、大丈夫でござんすから。」
「それでは。」
 ミリヤアドは衝《つ》と立ちあがり、床に二ツ三ツ足ぶみして、空ざまに手をあげしが、勇ましき面色《おももち》なりき。
「こんなに、よくなりました。上杉さん、大丈夫、駈《か》けてみましょう。門《かど》まで、」
 といいあえず、上着の片褄《かたづま》掻取《かいと》りあげて小刻《こきざみ》に足はやく、颯《さっ》と芝生にお
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