何も。」と予は面《おもて》を背けぬ。ミリヤアドは笑止がり、
「それでも、私《わたくし》は血を咯《は》きました、上杉さんの飲ませたもの、白い水です。」
「いいえ、いいえ、血じゃありませんよ。あなた血を咯いたんだと思って心配していらっしゃいますけれど血だもんですか。神経ですよ。あれはね、あなた、新さんの飲ませた水に着ていらっしゃった襦袢《じゅばん》のね、真紅《まっか》なのが映ったんですよ。」
「こじつけるねえ、酷いねえ。」
「何のこじつけなもんですか。ほんとうですわねえ。ミリヤアドさん。」
 ミリヤアドは莞爾《にっこ》として、
「どうですか。ほほほ。」
「あら、片贔屓《かたびいき》を遊ばしてからに。」
 と高津はわざとらしく怨《えん》じ顔なり。
「何だってそう僕をいじめるんだ。あの時だって散々《さんざ》酷いめにあわせたじゃないか。乱暴なものを食べさせるんだもの、綿の餡《あん》なんか食べさせられたのだから、それで煩うんだ。」
「おやおや飛んだ処でね、だってもう三月も過ぎましたじゃありませんか。疾《とっ》くにこなれてそうなものですね。」
「何、綿が消化《こな》れるもんか。」
 ミリヤアド傍《か
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