ならむ、この薬、予が手に重くこたえたり。
 じっとみまもれば心も消々《きえぎえ》になりぬ。
 その口の方《かた》早や少しく減じたる。それをば命とや。あまり果敢《はか》なさに予は思わず呟《つぶや》きぬ。
「たッたこれだけ、百滴吸ったらなくなるでしょう。」
「いえ、また取りに参ります……」
 といいかけて顔を見合せつつ、高津はハッと泣き伏しぬ。ああ、悪きことをいいたり。

     秀を忘れよ

「あんまり何だものだから、僕はつい、高津さん気にかけちゃ不可《いけな》い。」
「いいえ、何にもそんなことを気にかけるような、新さん、容体ならいいけれど。」
「どうすりゃ可《い》いのかなあ。」
 ただといきのみつかれたる、高津はしばしものいわざりしが、
「どうしようにも、しようがないの。ただねえ、せめて安心をさしてあげられりゃ、ちっとは、新さん何だけれど。」
 と予が顔を打《うち》まもれり。
「それがどうすりゃいいんだか。」
「さあ、母様《おっかさん》のことも大抵いい出しはなさらないし、他《ほか》に、別に、こうといって、お心懸《こころがか》りもおあんなさらないようですがね、ただね、始終心配していらっ
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