んすから舌が乾くッて、とおし、水で濡《ぬら》しているんですよ。もうほんとうにあわれなくらいおやせなすって、菊の露でも吸わせてあげたいほど、小さく美しくおなりだけれど、ねえ、新さん、そうしたら身体《からだ》が消えておしまいなさろうかと思って。」
といいかけて咽泣《むせびな》き、懐より桃色の絹の手巾《ハンケチ》をば取り出でつつ目を拭《ぬぐ》いしを膝にのして、怨《うら》めしげに瞻《みまも》りぬ。
「新さん、手巾《これ》でね、汗を取ってあげるんですがね、そんなに弱々しくおなんなすった、身体から絞るようじゃありませんか。ほんとに冷々《ひやひや》するんですよ。拭《ふ》くたびにだんだんお顔がねえ、小さくなって、頸《えり》ン処が細くなってしまうんですもの、ひどいねえ、私ゃお医者様が、口惜《くやし》くッてなりません。
だって、はじめッから入院さしたッて、どうしたッて、いけないッて見離しているんですもの。今ン処じゃただもう強いお薬のせいで、ようよう持っていますんですとね、ね、十滴ずつ。段々多くするんですッて。」
青き小《ちいさ》き瓶あり。取りて持返して透《すか》したれば、流動体の平面斜めになりぬ。何
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