ならむ、この薬、予が手に重くこたえたり。
じっとみまもれば心も消々《きえぎえ》になりぬ。
その口の方《かた》早や少しく減じたる。それをば命とや。あまり果敢《はか》なさに予は思わず呟《つぶや》きぬ。
「たッたこれだけ、百滴吸ったらなくなるでしょう。」
「いえ、また取りに参ります……」
といいかけて顔を見合せつつ、高津はハッと泣き伏しぬ。ああ、悪きことをいいたり。
秀を忘れよ
「あんまり何だものだから、僕はつい、高津さん気にかけちゃ不可《いけな》い。」
「いいえ、何にもそんなことを気にかけるような、新さん、容体ならいいけれど。」
「どうすりゃ可《い》いのかなあ。」
ただといきのみつかれたる、高津はしばしものいわざりしが、
「どうしようにも、しようがないの。ただねえ、せめて安心をさしてあげられりゃ、ちっとは、新さん何だけれど。」
と予が顔を打《うち》まもれり。
「それがどうすりゃいいんだか。」
「さあ、母様《おっかさん》のことも大抵いい出しはなさらないし、他《ほか》に、別に、こうといって、お心懸《こころがか》りもおあんなさらないようですがね、ただね、始終心配していらっしゃるのは、新さん、あなたの事ですよ。」
「僕を。」
「ですからどうにかして気の休まるようにしてあげて下さいな。心配をかけるのは、新さんあなたが、悪いんですよ。」
「え。」
「あのね、始終そういっていらっしゃるの。(私が居る内は可《い》いけれど、居なくなると、上杉さんがどんなことをしようも知れない)ッて。」
「何を僕が。」
予は顔の色かわらずやと危ぶみしばかりなりき。背《せな》はひたと汗になりぬ。
「いいえ、ほんとうでしょう、ほんとうに違いませんよ。それに違いないお顔ですもの。私が見ましてさえ、何ですか、いつも、もの思《おもい》をして、うつらうつらとしていらっしゃるようじゃありませんか。誠にお可哀相《かわいそう》な様《よう》ですよ。ミリヤアドもそういいましたっけ。(私が慰めてやらなければ、あの児《こ》はどうするだろう)ッて。何もね、秘密なことを私が聞こうじゃありませんけれど、なりますことなら、ミリヤアドに安心をさしてあげて下さいな。え、新さん、(私が居さえすりゃ、大丈夫だけれど、どうも案じられて。)とおっしゃるんですから、何とかしておあげなさいな。あなたにゃその工夫があるでしょう、上
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