るべし、色白く妍《かおよ》き女の、目の働き活々《いきいき》して風采《とりなり》の侠《きゃん》なるが、扱帯《しごき》きりりと裳《もすそ》を深く、凜々《りり》しげなる扮装《いでたち》しつ。中ざしキラキラとさし込みつつ、円髷《まるまげ》の艶《つやや》かなる、旧《もと》わが居たる町に住みて、亡き母上とも往来《ゆきき》しき。年紀《とし》少《わか》くて孀《やもめ》になりしが、摩耶の家に奉公するよし、予もかねて見知りたり。
目を見合せてさしむかいつ。予は何事もなく頷《うなず》きぬ。
女はじっと予を瞻《みまも》りしが、急にまた打笑えり。
「どうもこれじゃあ密通《まおとこ》をしようという顔じゃあないね。」
「何をいうんだ。」
「何をもないもんですよ。千ちゃん! お前様《まえさん》は。」
いいかけて渠《かれ》はやや真顔になりぬ。
「一体お前様まあ、どうしたというんですね、驚いたじゃアありませんか。」
「何をいうんだ。」
「あれ、また何をじゃアありませんよ。盗人《ぬすびと》を捕えて見ればわが児《こ》なりか、内の御新造様《ごしんぞさま》のいい人は、お目に懸《かか》るとお前様だもの。驚くじゃアありませんか
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