清心庵
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)市《まち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)草履|穿《は》き

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+句」、第4水準2−81−91]
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       一

 米と塩とは尼君が市《まち》に出で行《ゆ》きたまうとて、庵《いおり》に残したまいたれば、摩耶《まや》も予も餓《う》うることなかるべし。もとより山中の孤家《ひとつや》なり。甘きものも酢きものも摩耶は欲しからずという、予もまた同じきなり。
 柄長く椎《しい》の葉ばかりなる、小《ちいさ》き鎌を腰にしつ。籠《かご》をば糸つけて肩に懸け、袷《あわせ》短《みじか》に草履|穿《は》きたり。かくてわれ庵を出でしは、午《ご》の時過ぐる比《ころ》なりき。
 麓《ふもと》に遠き市人《いちびと》は東雲《しののめ》よりするもあり。まだ夜明けざるに来《きた》るあり。芝茸《しばたけ》、松茸、しめじ、松露など、小笹《おざさ》の蔭、芝の中、雑木の奥、谷
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